LEAF Vol.72 文学賞受賞作家たちのYA

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文学賞受賞作家たちのYA
LEAF Vol.72
fromヤングアダルトコーナー

「芥川賞」や「直木賞」、最近人気の「本屋大賞」。
名前は聞いたことがあるけど“文学賞”なんてハードルが高い!?
大丈夫!文学賞を受賞した作家の作品には、 中高生が楽しめる本もたくさん!
この秋は“文学賞作家”に挑戦!!

ひゃっか!

今村 翔吾 著
直木賞受賞作家
文響社  検索
同じ高校に通う生徒二人一組のチームが、大会当日に用意された花器と花を用いて5分以内に花をいけ、対戦相手との勝敗を競う大会、それが「全国高校生花いけバトル」だ。
審査員と観客が、作品のできばえはもちろん、いける際の所作やパフォーマンスも審査対象として判定する。
都内の女子高生・大塚春乃は、香川県高松市で行われる「花いけバトル決勝大会」を目指していた。
まずは地区予選で優勝しなければならないが、それ以前に、一緒に大会に出場してくれる相方が見つからない。
そんな時、転校してきた男子が、華道経験者だという情報をゲット。
さっそく勧誘に向かった先にいたのは、大衆演劇の花形、山城貴音だった。
設定も展開もベタなのに、ページをめくる手が止まらないのは、さすが!

六番目の小夜子

恩田 陸 著
直木賞受賞作家
新潮社 検索
2017年に「蜜蜂と遠雷」で直木賞受賞の恩田陸のデビュー作。
とある地方の進学校には、生徒の間でこっそりと受け継がれてきた「行事」があった。
三年に一度、誰にも知られぬままに「サヨコ」役の生徒が選ばれ、「サヨコ」となった生徒は、周りに自分が「サヨコ」だとばれないように、課せられたミッションをやり遂げることを求められる。
今年は6番目のサヨコが現れる年。最初のミッションを果たそうと、始業式の朝早くに登校してきたサヨコ役の生徒が目にしたのは、見たこともない美しい少女と、少女が持つ「サヨコ」の証の赤い花。
次に新しいクラスで見た少女は、転校生として紹介され「津村沙世子」と名乗った。
閉ざされた「学校」という空間での3年間と限られた「学校生活」の中で起こる、青春群像劇

本と鍵の季節

米澤 穂信 著
直木賞受賞作家
集英社 検索
高校2年生の図書委員である堀川次郎と松倉詩門。
静かな図書室で分類記号のラベル貼りなどをしていたふたりの元に図書委員を引退した浦上先輩が相談にやってきた。
亡くなった彼女の祖父の金庫の謎を解いてほしいという。
手掛かりは祖父が残した「大人になったらわかる」という言葉と遺品の本。これらを頼りに金庫の番号を推測していくふたりだったが、この謎解きは徐々に不穏な雰囲気に……?
近年は硬派なミステリーも書いている米澤穂信だが、デビュー作は高校を舞台とした青春ミステリーでアニメ化もされた『氷菓』
舞台が同じ本作は『氷菓』からはじまる古典部シリーズの作風に近い。
過去の米澤作品の雰囲気が好きな方、米澤アニメが好きな方、青春ミステリーを読みたい方におすすめ。

その日のまえに

重松 清 著
直木賞受賞作家
文藝春秋 検索
本作でいう「その日」とは、大事な人と永遠に別れなければならない日のこと。
突然やってくることもあれば、事前に知らされることもある「その日」に直面する本人とその周囲の人たちはどの ように向き合っていけばよいのだろうか。
「その日」を迎えるに当たりそれぞれの人生を描き出す7作で成り立つ連作短編集。
「その日のまえに」はその人の人生があり、「その日のあとも」残された人たちの人生は続いていく。
さまざまな人生が最後に交錯するところは感涙もの。
ドラマチックな展開はなく、淡々と進んでいく本作だが、どのように生きることが大切なのか、若いきみたちに少しでも考えてもらえれば本望だ。
いまは理解できないところがあっても、年を経た後にこんな作品があったなとふと思い出してほしい。

ぼくらのセイキマツ

伊藤 たかみ 著
芥川賞受賞作家
理論社 検索
ノストラダムスの予言によると、来年の夏、地球は滅亡するらしい。
でも、世界が終わる前に、僕らの高高校受験はやってくる。
そんな、世紀末間近に中3になってしまった僕の目下の悩みは、地球の滅亡でも受験でもなく、小学校時代からひそかに想っていたナナコに告白するタイミング。
ゾンビみたいな人形の世話に明け暮れ、保健室登校で、女子とはうまくやれない、ちょっと周りから浮き気味のナナコだけど、僕には最高の友達で、そのまま最高の彼女になってほしい。
そう思って告白の機会をうかがっていると、悪友ヒロも交えた3人で、海なし県の我が町から海へ繰り出そう!という計画が持ち上がる。
スマホもSNSも無い少し前の中学生の青春も、ちょっと恥ずかしくて、ちょっとジレジレで、そして尊い。

語ること、生きること

上橋 菜穂子 著
国際アンデルセン賞受賞作家
講談社 検索
「国際アンデルセン賞」受賞作家であり、文化人類学者でもある著者が、「作家・上橋菜穂子」の土台を語る。
体が弱く、医者にも「長くは生きられないかも」と言われた幼少時代。
外を駆け回りたくてもそれが許されない悔しさをなだめたのは、祖母の語ってくれる昔話だった。
祖母が孫の反応を見ながら展開を変えて語ったため、著者は、お話の先を、物語を想像する楽しさを知ったと言う。
いつしか「作家になりたい」という夢を抱くようになったが、そんな自分は、ただの「夢見る夢子さん」でしかないと己を客観視しつつも、書くことを止められなかった十代の頃。
やがて彼女は、居心地の良い場所に居座る臆病な自分の背中を蹴っ飛ばし、外の世界へ一歩踏み出すよう、自分を鼓舞した。
「どうやったら作家になれますか?」読者からたびたび寄せられる質問への著者の答えが、この1冊だ。

カラフル

森 絵都 著
直木賞受賞作家
講談社 検索
「おめでとうございます、抽選にあたりました!」
1ページ目からいきなり死んだ主人公に対して天使は言う。
前世であやまちをおかした主人公は輪廻のサイクルから外され、本来なら生まれ変わることはできないのだが、今回は特別に再挑戦のチャンスが与えられた。
運が良いんだか悪いんだかわからない状況の中、主人公は中学生「小林真」の体を借りて現世でホームステイをすることになる。
家庭や学校生活で複雑な人間関係を抱えながら生活していく主人公は、果たして前世の記憶を思い出すことができるのか?
人には多種多様な面がある。ひとつの色しかないようでも、角度を変えるといろいろな色が見えてくる。
単色で表現できる人なんて存在しない。人生はみんなカラフルなんだ。

あと少し、もう少し

瀬尾 まいこ 著
本屋大賞受賞作家
新潮社 検索
中学最後の駅伝で、県大会出場を目指す、陸上部部長の桝井日向。
だが、強力な指導者であった顧問が春に異動してしまい、かわりに顧問になったのは、陸上とは縁のなさそうな美術教師。
選手も6人のうち半分は、どこかから集めてこなくてはならない。
そんな困難な状況で、これはと見込んだ生徒のもとに通って駅伝に誘い、ようやく揃った6人の駅伝メンバー。
小学校時代のいじめの影響で消極的な設楽、金髪ヤンキーの太田、頼まれたら断らないムードメーカーのジロー、吹奏楽部でクールにサックスを奏でる渡部、桝井の走る姿に憧れる後輩の俊介、そして部長の桝井。
1区から6区を走る彼らの視点で、物語のたすきは次々と渡されていく。
駅伝に対する思い、一緒に走るメンバーの印象、自分自身の立ち位置。周りを意識して、自分を取り繕う男の子たちが、「もう少し」だけ成長する物語。

凍りのくじら

辻村 深月著
直木賞受賞作家
講談社 検索
『ぼくにとっての「SF」は、サイエンス・フィクションではなくて、「少し不思議な物語」のSF(すこし・ふしぎ)なのです』
これは、ドラえもんの作者である藤子・F・不二雄先生の言葉だ。
藤子F先生に影響を受けた主人公の理帆子はいつの頃からか人や物事の性質に「スコシ・ナントカ」という言葉を当てはめる。
そんな理帆子は「スコシ・不在」 彼女は屈託なくどこのグループの輪にも溶け込め、どんな場所や友達にも対応できる。
でも、場の当事者になることが絶対なく、どこにいてもそこを自分の居場所だと思えなく、息苦しく感じてしまう。
皆さんも学校の授業と部活と家庭を行き来する日々、そこで築く人間関係に閉塞感を感じたことはないだろうか?
そんなきみたちにおすすめするスコシ・フシギなミステリー。

時をかけるゆとり

朝井 リョウ 著
直木賞受賞作家
文芸春秋 検索
大学在学中に「桐島、部活やめるってよ」でデビューし、大学卒業後、会社員をしながら執筆した「何者」で直木賞を受賞した朝井リョウが、学生時代の出来事を中心に書いたエッセイがこれ。
基本的に、特別なことはさほど起きておらず、大学生の日常を綴っているのだが、それらが、ことごとくやらかしている。
黒歴史と言っていいエピソードが満載なのだ。
学生の特権とばかりに無茶をしたり、徹夜明けのテンションのような状態で何かに取り組み、案の定失敗したり。
時には、自分が出会っていたらイラッとしてしまうかも、と思うちょっと変わった人物との出会いがあったり。
くだらない事にも無謀なことにも、大学生特有の有り余る時間を使って、たくさん恥をかいて。
そんなキラキラした学生の日々を、絶妙な言葉選びでもって軽快に描写している本作は、電車など公共の場で読むときは要注意だ。